書評
『旬刊経理情報』2025年3月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:羽鳥 良彰 氏)に『内部統制「見直し」の実務 不備を生じさせないための「リスクトーク」という手法』有限責任監査法人トーマツ〔編〕 津曲 秀一郎〔著〕を掲載しました。
金融商品取引法により、上場会社を対象に財務報告に係る内部統制の経営者による評価と公認会計士等による監査(以下、「内部統制報告制度」という)が導入されてから、15年余りが経過している。この内部統制報告制度は財務報告の信頼性の向上に一定の効果があったと考えられる一方で、形骸化の懸念が高まるなか、経営者による内部統制の評価の外で開示すべき重要な不備が明らかになる事例が一定の件数で発生している。
また、国際的な内部統制の枠組みについても、財務報告から報告(非財務報告と内部報告を含む)への拡張、不正に関するリスクへの対応の強調、内部統制とガバナンスや全組織的なリスク管理との関連性の明確化等が行われている。わが国でもコーポレートガバナンス・コード等において、「攻めのガバナンス」の強化が求められ、内部統制の役割は重要視されるなかで、これらの課題に一定の対応が行われてきたものの、内部統制報告制度ではこれらの点に関する改訂が行われてこなかった。
このような内部統制報告制度をめぐる状況を踏まえ、2023年に初めて本格的な基準の見直しが行われた。本書では、内部統制の基本を振り返り、攻めと守りの両面から、より高度な内部統制を目指すうえで参考となるように、第Ⅰ章から第Ⅴ章にわたり、内部統制報告制度の改訂の経緯から主な改正点とその考え方が示されている。さらに第Ⅵ章では上場準備やサステナビリティ報告に係る内部統制についても言及し、各章では内部統制の構築と評価を行う企業の立場から目指すべき方向性として「リスクトーク」を通じて実施可能と考えられるさまざまな見直しや工夫が記載されている。内部統制報告制度が企業の評価と監査の両輪で成り立っているため、監査人側の財務諸表監査や財務報告に係る内部統制監査の基準で求められる内容も数多く取り込まれ、必要な範囲において監査の側面についても多くの図表を用いて丁寧に説明が行われている。
企業経営においては企業を取り巻く不確実な環境の下、戦略達成をより確実にすることが不可欠であると考える。本書が目指すあるべき姿の内部統制とガバナンスや全組織的なリスク管理との関連性についても視野を広げ視座を高め、温故知新と不易流行により、バックキャストとフォアキャストを組み合わせつつ、本書の共通言語である「リスクトーク」を重ねることで、リスクテイクのための内部統制の高度化を目指すとともにコーポレート・ガバナンスの高度化を図り、さらには企業の持続的成長および企業価値向上に役立つ一冊ではないかと考える。
内部統制の強化、評価、監視の対応に関与される経営者等の企業関係者のみならず、その監視を行う監査役等、企業を助言・指導する立場にあるコンサルタントや、監査と助言を行う監査人等、内部統制の実務に携わる方々には本書をぜひお手元に置いて役立てていただきたい。
羽鳥 良彰(株式会社ナレルグループ 社外取締役・常勤監査等委員 公認会計士)
記事掲載書籍をカートに入れる