『事業計画の極意―仮説と検証で描く成長ストーリー』(『旬刊経理情報』2025年3月20日特別増大号掲載書評)

書評

事業計画の極意―仮説と検証で描く成長ストーリー 旬刊経理情報』2025年3月20日特別増大号の書評欄(「inほんmation」・評者:手塚 正彦 氏)に『事業計画の極意―仮説と検証で描く成長ストーリー』木村 義弘〔著〕を掲載しました。







「計画未達が常態化しているうえに、未達でも総括がなく信頼できない」

これまでよくみられた日本企業の中期経営計画に対する評価である。未達の原因はさまざまだろうが、著者の木村氏の言葉を借りれば、計画に「命が吹き込まれていなかった」、すなわち「計画のための計画」だったのではなかろうか。そうであれば、総括すらできないことにも合点がいく。近年、コーポレート・ガバナンス改革が進展し、顕著な変化がみられる企業はあるものの、依然として多くの企業が計画に命を吹き込めずに悩んでいるというのが実情だろう。本書はそうした企業のためにこそある。

本書は、第1章「事業計画に向き合う」から、第9章「事業計画で描く経営の未来」までの9章から成る、「計画に命を吹き込む」ための教科書である。まずは、「はじめに」の、「Ⅰ 本書の位置づけ」と「Ⅱ 本書の章立て」に目を通してほしい。本書の独自性と執筆意図、そして優れた構成を理解することができる。各章のタイトルからわかるとおり、本書は、事業計画の意義から説き起こし、KPIの設定、さらには事業計画をPL、BS、CFという財務三表に落とし込んで仮説の検証と分析のためのツールとして作り込むところまでをカバーしている。説明の内容や順序を綿密に企画した理論的かつ実用的な稀有な著作であり、いわゆるハウツー本とは明確に一線を画している。木村氏は、スタートアップ投資、経営コンサルティング、海外事業拠点立上げ、経営企画、海外子会社のCFOを経験した後に自ら起業し、今はビジネススクールの特任教授も務めている。多彩なビジネス経験を通じて会得した事業計画作成と活用に係る知見を、教育者の視点からわかりやすく体系化し言語化した集大成が本書なのであろう。まさに「事業計画の極意」である。

第1章「事業計画に向き合う」は、熟読をお勧めする。事業計画作成の意義や使いこなし方について腹落ちし、後に続く章の理解が大いに深まるだろう。また、木村氏は、第2章について、「会計についてすでに知識がある方、もしくは会計が嫌で嫌で仕方ない方は一度読み飛ばしていただいても構いません」としているが、第2章「事業計画にとりかかる前に」の「Ⅵ ストーリーで追う数字の動き方」にもぜひ目を通してほしい。読者自身の「取引が財務三表にどのような影響を与えるかイメージする力」と、「財務三表のつながりに対する理解」を確認できる。これらは、事業計画にかかわる者に必須のリテラシーだが、会計の専門家でも身に付けるのは意外に難しいものだ。事業計画作成の前提としてこの章を設けた筆者の心配りには感心した。

本書は、企業経営者、事業責任者、投資家、公認会計士・税理士・中小企業診断士などの専門家をはじめとして、事業計画にかかわるあらゆる方の役に立つに違いない。事業計画策定にかかわるすべての人にとって、本書が夢やビジョンを実現するための羅針盤となることを願ってやまない。

手塚 正彦(一般財団法人会計教育研修機構 理事長・日本公認会計士協会 前会長)

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