書評
『旬刊経理情報』2025年4月10日号の書評欄(「inほんmation」・評者:松島 憲之 氏)に『財務・非財務報告のアカデミック・エビデンス』中野 誠・加賀谷 哲之・河内山 拓磨〔編著〕を掲載しました。
大学教授が書いた本は学術的な専門書であまり面白くないという先入観を持っていた。この本もいかにも学術書らしい書名である。しかしながら読みだしてみると、証券アナリストをしていた私にとって興味が尽きない内容を網羅しており、うなずきながら一気に読み終えた。
会計学者の研究対象が財務から非財務に拡大していることを踏まえ、本書では財務・非財務報告に関する全22章の研究トピックを選定している。そして論文ではなくビジネスパーソンが理解できるレベルの書籍としての読みやすさを意識しながら、本書を3つのパート(①財務報告、②ディスクロージャー、③非財務・関連トピック)にうまくまとめている。内容は財務会計から始まり非財務情報に向かう構成になっているが、この流れがわかりやすい。①財務報告では会計利益の資本市場での役立ちや財務報告の質に注目し、②ディスクロージャーでは重要度が増している統合報告書やサステナビリティ開示を取りあげ、 ③非財務・関連トピックでは経営者能力や人的資本会計などのあまり知られていない領域での最近までの動向を解説している。
各章の構成が統一されている点もよい。(1)そのトピックをめぐる背景、(2)学術的な理論や重要なアカデミック・エビデンス、(3)日本企業との関連性、(4)実務への示唆という4要素である。各章で取りあげたトピックは実務との関連性を意識して選定されており、本書による学術的知見と実務への示唆は企業経営にとって大いに参考になるだろう。編者の中野誠・加賀谷哲之・河内山拓磨の三氏は、一橋大学CFO教育研究センター(伊藤邦雄一橋大学名誉教授がセンター長)の財務リーダーシップ・プログラムで講師を担っており、企業の実務担当者との対話を通じて彼らの関心事を心得ているからこそ、ビジネスパーソンが興味を持ちそうなトピックを選定できたのだと思う。
また、ありがたいのは興味がある章を選んで読んでも理解できる点だ。序章にも記載してあるが、第1章「会計情報と株式市場」、第9章「情報開示:四半期開示」、第10章「株主資本コスト」、第16章「株主アクティビズム・議決権行使」、第18章「IRエンゲージメント」を読むと、最近の株式市場の潮流や開示の重要性がわかる。
私が最も興味深く読んだのは、第1章「会計情報と株式市場」、第17章「コーポレート・ガバナンス」、第19章「経営者能力」、第20章「人的資本会計」、第21章「知的財産・無形資産」だった。これらから得られる知見は、今後の重要課題になるインフレ対応力強化と企業経営者の変革にとって参考になると思った。
本書は会計学の研究者への基礎の提供のみならず、投資家や企業の財務経理やIRに従事するビジネスパーソンにとって「実務で武器になる」と帯に記載してあるが、まさにその通りの有益な書である。
今後は非財務情報の見える化が新たな企業評価を生むが、会計学者の研究がそれを導くことに期待したい。
松島 憲之(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 委嘱アドバイザー)
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