『企業価値を「創造」する経理財務―バックオフィスからフロントオフィスへの変革』(『旬刊経理情報』2025年5月1日号掲載書評)

書評

企業価値を「創造」する経理財務―バックオフィスからフロントオフィスへの変革 旬刊経理情報』2025年5月1日号の書評欄(「inほんmation」・評者:赤松 育子 氏)に『企業価値を「創造」する経理財務―バックオフィスからフロントオフィスへの変革』脇 一郎〔著〕を掲載しました。







経理財務部門に長年お世話になっている者として、本書のタイトル「企業価値を『創造』する」という言葉に、心から痺れた。さすが、プロフェッショナルファームの代表、そして日 本公認会計士協会の常務理事としてグローバルに活躍する頭脳明晰な著者ならではの視点だ(ちなみに彼はテニスやゴルフの腕前もプロ並みに素晴らしく、生粋のスポーツマンでもある)。

そう、経理財務部門は企業価値を「創造」しているのだ。2019年、NHKドラマ10で放映された「これは経費で落ちません!」を皆さんは覚えていらっしゃるだろうか。主演の多部未華子さんが扮するのは、石けんメーカーの経理部に勤めるアラサー独身女子・森若沙名子。その彼女の口癖は「イーブン」だった。あたかも貸借対照表の貸借一致を連想させるような言葉を発しながら、彼女は「何事にもイーブンに生きる」ことをモットーにしているのだ。

社内から集まってくる領収書や請求書をきっちりとチェックする彼女。現金や預金、それらを表現する数字を扱うわけだから、経理財務に携わる人材には、正確で慎重で几帳面な性格が求められる。主人公の森若さんも、世の中が連想する「いわゆる」経理部員として描かれている。

一般的に、経理財務部門はバックオフィスと呼ばれ、営業部門等に比べれば地味であるし、縁の下の力持ちとして決められたこときっちり淡々とこなして初めて合格点がもらえる仕事であろう。失敗をすれば即減点、大変な叱責を受けてしまうという理不尽な部署だともいえるだろう。

しかし実際には、数字の向こう側には、人の営みがある。

たとえば、売上が100万あがったこと、交通費が680円かかったこと、消耗品費として1,500円を計上すること等々。これらの数字の向こう側には、当然のことながら生身の人間の営みがあって、それを「数字」という形で表現しているに過ぎないのだ。

残念ながら数字になってしまうと、どうしても無味乾燥にみえてしまうし、たとえば懸命な努力をして100万円の売上を獲得したのか、もしくはさくっと棚ぼただったのかは、「売上100万円」として区別がつけられない。だからこそ、その数字の裏に潜む人間の営みを想像する力が経理財務部門に求められているのではないだろうか。

本著の第3章「企業価値を創造する経理財務部門の機能」第1節「非財務価値を生かす」には「COOはP/L、CFOはB/Sを創造する」とある。ビジネス事業部門のトップであるCOOの陣頭指揮の結果がP/Lに、経理財務部門のトップであるCFOの営みの結果がB/Sに表現されているという意味だ。とするならば、その数字をどうやって生み出したのか、また将来に向けて企業価値を創造するために、どうやって数字を生み出していったらいいのか。その命題に寄り添っていく企業の中核部門が経理財務部門であるし、だからこそ、経理財務部門は、企業価値を「創造」しているといえるのだ。

より多くの人に読んでいただきたいと願う。

赤松 育子(公認会計士)

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