原子力発電の会計学

金森 絵里

定価(紙 版):5,500円(税込)

発行日:2022/03/03
A5判 / 316頁
ISBN:978-4-502-41511-1

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本の紹介
原発会計を「内」(実務的観点)と、「外」(理論的観点)から分析。実際の原発政策には、非科学的で非合理的な部分が少なからず含まれていること等を導いている。

目次

はじめに
初出一覧

第1章 会計の「内」と「外」の説明と本書の構成
 1.1 会計の「内」と「外」
 1.2 批判とは何か
   1.2.1 原発会計批判
   1.2.2 批判とは
   1.2.3 イギリス批判会計学派
 1.3 会計とは何か
   1.3.1 お金の計算と富の計算
   1.3.2 正当化する会計
   1.3.3 規律・訓練型権力としての会計
 1.4 本書の構成

第2章 本書の問題意識と位置づけ
 2.1 本書の問題意識
 2.2 本書の位置づけ
   2.2.1 科学批判の系譜
   2.2.2 「科学の危機」
   2.2.3 機械的客観性と対象化
   2.2.4 社会構成主義との関係
 2.3 規範的視点の試み
   2.3.1 これまでの説明のまとめ
   2.3.2 虚構としての会計
   2.3.3 会計保守主義再考

第3章 本書の研究方法と言説分析
 3.1 本書の研究方法
   3.1.1 科学方法論の展開と会計学研究
   3.1.2 イギリス批判会計学派の方法論
   3.1.3 「科学と会計」
 3.2 言説分析
   3.2.1 社会科学の方法論と手法
   3.2.2 解釈主義的な言説分析

第Ⅰ部 原発会計の内
第4章 「原発は安い」という言説

 4.1 原子力の経済性
 4.2 エネルギー政策と経済性議論
   4.2.1 2050年のエネルギー政策の方向性
   4.2.2 2030年のエネルギー政策の計画
 4.3 有価証券報告書上の原発コスト
 4.4 原発コストの過小評価と再処理費用
   4.4.1 バックエンド費用の過小評価
   4.4.2 再処理の会計

第5章 「東京電力は債務超過にできない」という言説
 5.1 福島第一原発事故と東電救済
 5.2 原発事故コストの会計処理
   5.2.1 原発事故コストの推移
   5.2.2 「総合特別事業計画」(2012)
   5.2.3 「新・総合特別事業計画」(2013)
   5.2.4 「新々・総合特別事業計画」(2017)
   5.2.5 原発事故債務のオフバランス化
 5.3 債務超過で賠償支払を継続しているチッソ

第6章 「責任と競争の両立」という言説
 6.1 はじめに
 6.2 東電委員会と「東電改革提言」
 6.3 「責任」と「競争」の両立をめぐって
   6.3.1 第1回東電委員会(2016年10月5日)
   6.3.2 第2回東電委員会(2016年10月25日)
   6.3.3 第3回東電委員会(2016年11月15日)
   6.3.4 第4回東電委員会(2016年11月18日)
   6.3.5 第5回東電委員会(2016年12月5日)
   6.3.6 第6回東電委員会(2016年12月9日)
   6.3.7 第7回東電委員会(2016年12月14日)
   6.3.8 第8回東電委員会(2016年12月20日)
   6.3.9 第9回~第11回東電委員会(「東電改革提言」公表後)
 6.4 「責任」と「競争」の両立をめぐる議論の整理
   6.4.1 指摘された両立困難性
   6.4.2 東電委員会はどのようにして「責任」と「競争」を両立させたか
   6.4.3 東電委員会に「残された宿題」
 6.5 「第四次総合特別事業計画」

第7章 「廃炉を円滑に進めるための会計制度」という言説
 7.1 廃炉会計制度
   7.1.1 2013年廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ
   7.1.2 2015年廃炉に係る会計制度検証ワーキンググループ
   7.1.3 2017年財務会計ワーキンググループ
   7.1.4 3つの議論の目的
   7.1.5 議論の構成
 7.2 反映されなかった3つの意見
   7.2.1 「会計と料金は別問題」
   7.2.2 一般会計の適用
   7.2.3 原理・原則の必要性
 7.3 会計が先か,料金が先か

第Ⅱ部 原発会計の外
第8章 原発会計の可塑性

 8.1 はじめに
 8.2 金融の社会学
 8.3 経済評価の社会学
 8.4 会計の可塑性
   8.4.1 付加価値会計
   8.4.2 ブランド会計
   8.4.3 「公正」価値と会計の金融化
   8.4.4 減損会計
   8.4.5 評価の可塑性
 8.5 可塑性―数字の下にある対立

第9章 原発事故の経済化
 9.1 はじめに
 9.2 定量化の社会学と経済化
   9.2.1 定量化の社会学
   9.2.2 定量化研究における経済化
   9.2.3 経済化の射程
 9.3 経済化における4つの会計機能
   9.3.1 領土化
   9.3.2 媒介
   9.3.3 裁定
   9.3.4 主体化
 9.4 経済化―会計数値であらわすこと
 9.5 おわりに

著者紹介

金森 絵里(かなもり えり)
[プロフィール]
1974年生まれ。1996年京都大学経済学部卒業,2000年同大学大学院経済学研究科博士後期課程中退。イギリス・カーディフ大学カーディフ・ビジネス・スクールPh.D課程を経て,2008年Ph.D(カーディフ大学)。立命館大学経営学部専任講師,助教授,准教授を経て,現在,立命館大学経営学部教授。

[主な著作]
『原子力発電と会計制度』(中央経済社,2016年)
「変わる電力会社の役割」(植田和弘監修・大島堅一・高橋洋編著『地域分散型エネルギーシステム』日本評論社,2016年)
「会計情報からみる福島第一原発事故への道」(原発史研究会編『日本における原子力発電のあゆみとフクシマ』晃洋書房,2018年)
"Distributing the Costs of Nuclear Core Melts : Japan's Experience after 7 Years" (co-authoured with Tomas Kaberger, in : R. Haas, L. Mez and A. Ajanovic eds., The Technological and Economic Future of Nuclear Power, 2019)

担当編集者コメント
金森絵里先生による、原子力発電に関する2冊目の著書。

1冊目は東日本大震災からちょうど5年目に刊行した『原子力発電の会計制度』。ここでは原子力発電制度の創設と変遷について整理し、通常の企業会計とは異なる会計規則が既定されてきたこと等を明らかにしている。

前作から6年の時をかけ、蓄積してきた研究成果をまとめたのが本書『原子力発電の会計学』である。
本書の特徴は、実務的な運用面(本書では「内」という表現を用いている)と会計学の理論的な観点(本書では「外」という表現を用いている)から検討している点である。
「内」と「外」からの考察をとおして、帯にも書いたとおり「実際の原発政策には、非科学的で非合理的な部分が存在する」ことを解明している。