介護組織の共感ネットワーク―イノベーションの定着メカニズム

田原 慎介

定価(紙 版):4,290円(税込)

発行日:2022/03/16
A5判 / 260頁
ISBN:978-4-502-41871-6

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本の紹介
介護サービスを事例として、サービスが継続的に展開されるメカニズムを考察。ユーザー同士のネットワークと、そこでのサービスに関する知識の移転の効果が鍵となる。

目次

まえがき 

第1章  イノベーティブな社会サービスの定着とユーザーコミュニティ
 第1節 介護組織が現場で実施する新しい社会サービス   
 第2節 定着のメカニズムに着目する意義   
 第3節 介護組織間における学習の新しい社会サービス定着への効果
 第4節 経営学が解くべき問題   
 第5節 調査対象   
 第6節 本書の構成   

第2章  ユーザーコミュニティにおける新しい社会サービスの組織間学習
 第1節 新しい社会サービスとは何か   
  1 イノベーションされた社会サービス
  2 サービス経営学から見た新しい社会サービス
 第2節 新しい社会サービスに着目する背景   
  1 新しい社会サービスの6段階モデル
  2 ニュー・パブリック・マネジメントと新しい社会サービス
  3 新しい社会サービスの定着に関わる問題
 第3節 顧客志向型のマーケティング研究   
  1 顧客との関係性を重視するマーケティングの視点
  2 顧客が認識するサービスの価値
 第4節 定着を促進する顧客ネットワークの知識移転   
  1 組織セットが持つネットワークの多様な構造形態
  2 イノベーション普及のネットワーク構造
  3 関係性の質によって変化する知識移転の効果

第3章 介護ビジネスと新しい社会サービス
 第1節 介護産業の特徴   
  1 高齢者ケア政策と介護ビジネス
  2 競合する企業とNPO
 第2節 介護保険サービスの課題   
  1 介護保険制度の背景
  2 介護保険サービスの特徴
  3 高齢者ケア政策の問題
 第3節 公的保険外サービスの定着と普及   
  1 介護の公的保険外サービス
  2 認知症高齢者ケアのサービス事例
 第4節 認知症の予防・改善を目的として開発された「学習療法」
  1 学習療法の開発と効果
  2 学習療法の普及と課題
  3 学習療法センターと顧客の関係性
 第5節 特別養護老人ホームを展開する芦別慈恵園の事例   
  1 芦別慈恵園の概要
  2 芦別慈恵園が実施している日常の介護
  3 学習療法をツールとした介護の質の改善
 第6節 介護老人保健施設を展開するやすらぎの杜の事例   
  1 やすらぎの杜の概要
  2 やすらぎの杜が重視する人材育成と介護サービス
  3 質の高いサービス提供の基礎となる学習療法
 第7節 デイサービスを展開するすぷーん上亀田の事例   
  1 シニア健康教室すぷーん上亀田の概要
  2 すぷーんが提供する介護サービス
  3 学習療法を基盤とした活動の広がり
 第8節 介護サービスのユーザーコミュニティ   
  1 介護産業で活動する複数の事業者団体
  2 学習療法のユーザーコミュニティが持つ多様なネットワーク

第4章  顧客ネットワークが及ぼす新しい社会サービス定着への効果
 第1節 新しい社会サービスの定着を促進する組織間関係の理論的検討   
  1 資源ベース理論
  2 資源依存論
  3 新制度派組織論
  4 社会ネットワーク論
 第2節 組織間ネットワーク研究における新たな関係論的視点
  1 交換ロジックの埋め込み概念を用いた組織間関係
  2 社会ネットワークへの埋め込みが及ぼすポジティブな効果
 第3節 顧客ネットワークの構造と関係性の質   
  1 定着ネットワークの構造
  2 相互多面的な深いコミュニケーションを促進する強い紐帯の効果

第5章  顧客ネットワークが及ぼす学習療法定着への効果に関する生存時間解析
 第1節 顧客ネットワークの構造と学習療法定着の関係   
 第2節 調査の概要   
 第3節 分析1:水平的相互作用型の構造を持つX研究会に関する生存時間解析   
  1 データ
  2 変数
  3 統計手法
  4 分析結果
 第4節 分析2:凝集型の構造を持つZ研究会に関する生存時間解析   
  1 データ
  2 変数
  3 統計手法
  4 分析結果
 第5節 多様な構造の顧客ネットワークが持つ効果   

第6章  組織間ネットワークを通じて定着を促進する顧客間の学習
 第1節 組織学習論において知識移転に着目する意義   
 第2節 知識移転の基盤となるトランザクティブ・メモリー・システム(TMS)   
  1 TMSの有効性と関係的要因
  2 TMSの機能
  3 TMSと知識移転
 第3節 TMSを基盤とする知識移転のメカニズム   
  1 知識の特徴
  2 陳述的知識と手続的知識の移転メカニズム
  3 手続的知識の移転を阻害する粘着性の問題とその克服策
 第4節 TMSの形成を促進する顧客間の信頼   
  1 信頼に着目する意義
  2 2つのタイプの信頼:認知的信頼と感情的信頼
  3 TMS研究における信頼の効果

第7章  顧客間の信頼関係と学習療法の定着意欲に関する計量分析
 第1節 顧客間の信頼と学習療法の定着意欲との関係   
 第2節 調査の概要   
  1 データ
  2 測定尺度
  3 分析方法
 第3節 計量分析の結果   
 第4節 顧客間で形成された信頼関係の効果   

第8章  学習療法の定着に影響を及ぼす知識移転の効果に関する事例
 第1節 信頼関係をもとに形成されたTMSが促進する知識移転
 第2節 事例の説明に用いるデータ   
 第3節 集中型の構造を持つ研修会   
 第4節 水平的相互作用型の構造を持つX研究会   
  1 参加者の特性
  2 認知的信頼をもとに形成されたTMS
  3 TMSを通じた知識の探索と移転
  4 X研究会への参加を通じた学習療法の定着
 第5節 凝集型の構造を持つZ研究会   
  1 参加者の特性
  2 感情的信頼をもとに形成されたTMS
  3 TMSを通じた知識の探索と移転
  4 Z研究会への参加を通じた学習療法の定着
 第6節 顧客間における知識移転の効果   

第9章 定着におけるユーザーコミュニティの効果
 第1節 新しい社会サービスの定着メカニズム   
 第2節 ユーザーコミュニティの効果   
 第3節 顧客間の学習と新しい社会サービスのエコシステム   
 第4節 将来の研究へ向けた今後の展望   
 第5節 介護組織が取り組むべき課題   

あとがき 

著者紹介

田原 慎介(たはら しんすけ)
[プロフィール]
1980年生まれ。
2021年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。
現職:公立諏訪東京理科大学共通・マネジメント教育センター講師
略歴:立教大学経済学部経済学科を卒業後,実務経験を経て,慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程へ進学。修了後,再び実務経験を経て,京都大学大学院経済学研究科博士後期課程へ編入学。その後,関西学院大学人間福祉学部助教,京都大学大学院経済学研究科ジュニアリサーチャーなどを経て現在へ至る。
研究分野:経営組織論,アントレプレナーシップ論

[主な著作]
【分担執筆】
『ソーシャル・キャピタルと経営―企業と社会をつなぐネットワークの探究―』(ミネルヴァ書房,2018年)
『社会起業を学ぶ』(関西学院大学出版会,2018年)
『慶應SFCの起業家たち』(慶應義塾大学出版会,2013年)

【雑誌論文】
「組織間ネットワークに埋め込まれた顧客組織における知識探索の効果―介護組織を対象とした新しい社会サービスの定着事例―」(経済論叢,2022年)
「介護保険指定事業者の公的保険外サービス提供意欲における事業者間の「信頼」効果に関する計量分析―学習療法を題材に―」(経営行動科学,2021年)

【共著】
「顧客組織間の凝集型ネットワークが及ぼす新しい社会サービス定着への効果:学習療法の生存時間解析」(組織科学,2021年)