SEC 会計規制の政治力学

杉本 徳栄

定価(紙 版):6,160円(税込)

発行日:2025/03/26
A5判 / 368頁
ISBN:978-4-502-52391-5

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本の紹介
米国における権力分立のもとで、SEC(証券取引委員会)が、政権政党からどのような影響を受けてきたのか。会計規制の政策形成に対する政治力学を解明する。

目次

序章 本書の研究課題
第1節 アメリカ合衆国憲法の権力分立とSECのミッション
第2節 立法府である連邦議会の行政監視-連邦議会とSECの結びつき-
第3節 行政府の長である大統領の政治任用-大統領とSECの結びつき-
第4節 司法府である連邦裁判所の判決-合衆国最高裁判所とSECの結びつき-
第5節 先行研究と研究課題:その1-権力分立下のSECの会計規制に対する政治的影響-
第6節 先行研究と研究課題:その2-政策のアジェンダ設定の研究モデル-

第Ⅰ部 国際財務報告基準(IFRS)導入の会計規制をめぐる政治力学
第1章 民主党政権下のIFRS導入に向けた会計規制の基盤形成

第1節 はじめに-問題意識-
第2節 レビットJr.委員長による投資家保護の信念
第3節 レビットJr.委員長による「高品質な会計基準」の重要性の認識-IFRSの導入に向けた会計規制の素地-
第4節 IFRSの導入に向けた会計規制の基盤形成の舞台裏-SEC主任会計士の役割-
第5節 おわりに

第2章 共和党政権下のIFRS導入に向けた会計規制の基盤形成
第1節 はじめに-問題意識-
第2節 ピット委員長による高品質な会計基準に向けた国際的コンバージェンス
第3節 PCAOB委員長任命にみる政治介入-ピット委員長体制の瓦解-
第4節 ドナルドソン委員長によるIFRS導入と相互承認戦略
第5節 SECによる規制強化の加速と共和党コミッショナー間の意見分裂-ドナルドソン委員長への政治的圧力-
第6節 おわりに-ブッシュ大統領のジレンマとドナルドソン委員長の退任-

第3章 共和党政権下のIFRS導入に関するSECの会計規制
第1節 はじめに-問題意識-
第2節 コックス委員長による投資家保護の信念
第3節 内憂外患のアメリカ:その1-内憂:アメリカの資本市場の競争力の強化-
第4節 内憂外患のアメリカ:その2-外患:アメリカ会計基準をめぐるEUへの対応-
第5節 コックス委員長によるIFRS導入の規制措置の展開
第6節 アメリカへのIFRS導入の会計規制に関わるSECコミッショナーの票決
第7節 おわりに

第4章 民主党政権下のIFRS導入に関するSECの会計規制
第1節 はじめに-問題意識-
第2節 シャピロ委員長のスピーチ・連邦議会証言等とIFRS規制問題への関心度
第3節 シャピロ委員長のもとでのSECによる規制措置とその特徴
第4節 アメリカの発行体に対するIFRS適用の規制措置
第5節 規制措置に向けたSECコミッショナー間の合意形成と対立構造
第6節 SEC委員長としてのシャピロの功績
第7節 シャピロ委員長在任中のSECコミッショナーによるIFRS規制問題への関心度
第8節 第2期オバマ政権発足後のホワイト委員長によるIFRS規制問題への関心度
第9節 第2期オバマ政権発足後の新SECコミッショナー
第10節 おわりに-ドッド=フランク法でSECに課された規制措置への対応-

第5章 SEC主任会計士室とIFRSのイニシアティブ
第1節 はじめに-問題意識-
第2節 「SECと財務報告協会年次大会」と「SECおよびPCAOBの最近の動向に関するAICPA全国会議」
第3節 「SECと財務報告協会年次大会」におけるSEC関係者のIFRSをめぐる見解表明
第4節 アメリカの発行体の財務報告制度へのIFRSの組込みと「第4の選択肢」
第5節 おわりに-「IFRSを葬り去る」見解の否定-

第6章 政権移行期のIFRS導入に関するSECの会計規制
第1節 はじめに-問題意識-
第2節 シャピロのSEC委員長退任ならびにウォルターのSEC委員長就任と退任
第3節 ホワイトのSEC委員長就任
第4節 ホワイト委員長のIFRS対応
第5節 トランプ政権移行によるSECコミッショナーの政治任用
第6節 おわりに

第Ⅱ部 高頻度取引の監督強化規制と四半期開示廃止をめぐる政治力学
第7章 高頻度取引の監督強化に関するSECの規制と政治力学

第1節 はじめに-問題意識-
第2節 高頻度取引規制とアメリカ連邦議会の政治力
第3節 高頻度取引規制に向けた政治力の拠り所―学術上の研究成果の役割―
第4節 フラッシュ・オーダーに対するSECの規制措置の取組み
第5節 高頻度取引に対するSECの規制措置の取組み
第6節 おわりに

第8章 投資家のためのアメリカ財務報告制度とSEC主任会計士室の改革
第1節 はじめに-問題意識-
第2節 SEC主任会計士室の役割と機能
第3節 「公正で透明な市場のための偉大な十字軍戦士(改革運動家)の1人」であるターナー元SEC主任会計士による改革提案
第4節 SEC主任会計士室の改革提案とその理由
第5節 おわりに

第9章 四半期資本主義・短期主義批判と四半期開示廃止の政治力学
第1節 はじめに-問題意識-
第2節 企業の短期主義(短期的利益志向)とSECの規制措置
第3節 大統領選挙公約でのクォータリー・キャピタリズム(四半期資本主義)批判
第4節 ヒラリー・クリントンの短期主義のターゲット
第5節 四半期開示の見直しの議論の発端-大統領によるTwitterでのツイート-
第6節 おわりに-SECの規制措置に向けた取組みの実態-

第Ⅲ部 サステナビリティ情報の開示規制をめぐる政治力学
第10章 気候関連開示規制をめぐる政治的駆け引きとSECの設定権限

第1節 はじめに-問題意識-
第2節 気候関連開示の規制措置に対する賛否とその特徴
第3節 シンクタンクのコメントとその特徴
第4節 気候政策の設定権限-SECが気候関連開示を義務づける権限の存否-
第5節 おわりに

第11章 サステナビリティ報告の基準開発に対するSECコミッショナーの意見発信
第1節 はじめに-問題意識-
第2節 FAF・FASB・GASBの2015年「戦略計画」-ミッション,ビジョンおよびバリューと戦略目標-
第3節 FAFの2022年「戦略計画」-ミッション,ビジョンおよびバリューと目標-
第4節 SECコミッショナーによるFAFの2022年「戦略計画(案)」に対する反対表明-FAFによるサステナビリティ基準設定への批判-
第5節 SECコミッショナーによるISSB設立のためのIFRS財団定款修正案に対する反対表明-IFRS財団によるサステナビリティ基準設定への批判-
第6節 FAFの2022年「戦略計画(案)」に寄せられたコメントレターの分析
第7節 おわりに

第12章 SECコミッショナーの投票行動と財務会計財団(FAF)の戦略計画の策定
第1節 はじめに-問題意識-
第2節 パースSECコミッショナーが反対票を投じる理由
第3節 FAFの2022年「戦略計画」策定に対するSECの影響力
第4節 おわりに

第13章 SECの設定権限と合衆国最高裁判所のシェブロン法理
第1節 はじめに-問題意識-
第2節 シェブロン法理の定式化
第3節 政権交代に伴う解釈の変更
第4節 シェブロン法理の例外原則-重要問題の法理-
第5節 おわりに

終章 権力分立と会計規制の政治力学
第1節 「政策の窓」モデルによる再整理
第2節 「政策の窓」モデルのIFRS導入に向けた会計規制への適用可能性
第3節 重要な判例に基づく法理と政治理念

著者紹介

杉本 徳栄(すぎもと とくえい)
[プロフィール]
関西学院大学大学院経営戦略研究科教授・博士(経済学)東北大学
1988年 神戸商科大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得退学
1988年 鹿児島経済大学経済学部専任講師,助教授
1994年 龍谷大学経営学部助教授,教授
1997年 博士(経済学)東北大学
1986年 延世大学校(Yonsei University)商経大学大学院留学(~1987年)
1999年 Duke University, The Fuqua School of Business Research Scholar(~2000年)
2005年より現職
これまで,公認会計士試験試験委員,税理士試験試験委員,文部科学省 中央教育審議会専門委員,会計教育研修機構理事,国際会計研究学会会長,会計大学院協会理事長・相談役等を歴任。

[主な著作]
『価値のための会計―賢明なる投資家のバリュエーションと会計』(共訳,白桃書房,2021年)
『国際会計の実像―会計基準のコンバージェンスとIFRSsアドプション』(同文舘出版,2017年)
『事例分析 韓国企業のIFRS導入』(共編著,中央経済社,2011年)
「アメリカSECの会計政策―高品質で国際的な会計基準の構築に向けて』(中央経済社,2009年)
「開城簿記法の論理』(森山書店,1998年)

担当編集者コメント
本書は米国の行政機関であるSEC(米国証券取引委員会)が、立法権を司る連邦議会、行政権を司る大統領、司法権を司る裁判所から、これまでどのような影響を受けて政策形成をしてきたかについて、第一次資料などをもとに解き明かしています。

米国におけるIFRS導入、高頻度取引の監督強化、四半期開示、サステナビリティ情報の開示などの会計規制を対象として、その時代にもまれてきたSECの内実を明らかにしています。

本書の特徴の1つとして、数多くの図表を用いている点が挙げられます。
研究対象が長期間にわたるため、文字のみでの解説では冗長になりがちなところ、各時代でどちらの政党が議会の多数派だったのか、大統領はどちらの政党か、票決では誰が(どちらの政党が)賛成/反対票を投じているのか等が一目でわかるように工夫されています。

また、読者が読みやすいよう、登場人物の名前をできる限りカタカナで表記されているのも、工夫しているポイントです。
人名に関しては、巻末にまとめられた「人名索引」も整理されており圧巻です。SECの歴代委員長や歴代大統領の名前は複数のページにわたっているので、それだけを見ても影響力の大きさがわかります。

会計や監査の研究者のみならず、政治に興味のある方や、会計士などの実務家にも読んでもらいたい1冊です。