- 本の紹介
- 経済学の基本概念である「所得」と会計上の「利益」との関係性やのれんの認識・測定の論点を解明する。さらに、第Ⅲ部で今後の会計研究のあり方を問う対談を2本収録。
目次
第Ⅰ部 所得と利益
第1章 会計基準と基準研究のあり方:整合性・有用性・規範性
1 はじめに
2 有用性の実証と会計基準へのインプリケーション
3 有用性と因果関係の定性分析:利益と資本の概念
4 書かれたルールと社会規範:会計基準を決めるもの
5 おわりに
第2章 会計利益概念はどこへ
1 はじめに:会計基準と新古典派経済学
2 包括利益と純利益
3 会計基準改革の混乱:資産・負債アプローチと利益の概念
4 経済的所得概念の含意:ウィンドフォールとOCI処理
5 おわりに:利益概念の重要性
第3章 二分法の幻想:会計利益と経済所得
1 はじめに
2 最初に会計の経済理論を提唱したアービング・フィッシャー
3 経済学界の会計人であるジョン・ヒックス
4 忘れられたオーストリアとのつながり
5 おわりに:さようなら二分法
第4章 ハイエク-ヒックス所得概念と学問としての会計の可能性
1 はじめに:経済的所得概念の再検討
2 資本維持と表裏一体の所得概念
3 利子率が一定の場合の所得
4 利子率が変動する場合の所得
5 期待が変化した場合の事前と事後の所得
6 次期の事前としての今期の事後
7 おわりに
第5章 操作性のある会計利益概念構築を目指して
1 はじめに:会計利益と経済所得
2 市場均衡をベンチマークとする利益概念:割引率・期待フロー一定
3 市場均衡をベンチマークとする利益概念:割引率一定・期待フロー変動
4 市場均衡をベンチマークとする利益概念:割引率変動・期待フロー一定
5 期待フローが確率変数であることを明示した場合
6 Variable Incomeとの連続性
7 おわりに
第6章 配当割引法と割引超過利益法の等価性と実証研究
1 はじめに
2 割引配当法と割引超過利益法の等価性
3 座標変換としての会計基準
4 「単なる」座標変換としての会計基準の価値無関連性
5 実体・測定相互依存下における等価性の意味
6 測定と実体の相互作用
7 おわりに
第7章 東西の思いがけない出会い:会計概念フレームワークの収斂進化
1 はじめに
2 対応と不確実性の解消
3 リスクからの解放:日本発の視点
4 おわりに
第8章 公正価値会計の目的適合性と信頼性の探求
1 はじめに
2 公正価値の目的適合性
3 金融投資と事業投資
4 公正価値の信頼性
5 おわりに:会計測定に万能薬なし
補 章 多期間(現実)の世界におけるヘッジとヘッジ会計
1 はじめに:ヘッジ取引と会計基準
2 ヘッジ会計のどこが問題か
(1) 公正価値会計とヘッジ会計
(2) 公正価値ヘッジとキャッシュフロー・ヘッジ
3 無リスク概念の再検討
4 おわりに
第Ⅱ部 のれんの認識と測定
第9章 包括利益のリサイクリングと純利益の実現:両立するケースとしないケース
1 はじめに
2 包括利益と実現利益
3 実現なきリサイクリング
4 おわりに
補論 図解と数値例
第10章 のれんのオンバランスとオフバランス
1 はじめに
2 取得のれんの認識と測定
(1) 企業結合と承継する純資産額
(2) 自己創設のれんと取得のれん
3 取得のれんの減耗と償却
(1) 減耗と取替償却のアナロジー
(2) 取得のれんの減耗と減損損失
4 おわりに
第11章 のれんの会計認識と経済分析
1 はじめに
2 のれん価値の形成と実現
3 取得のれんと自己創設のれん
4 経済的所得と整合的なのれんの資本・利益認識
5 のれんはなぜ存在するのか
6 自己創設のれん非認識・取得のれん償却の有用性
7 おわりに
補論 のれんの資本・利益認識:現金支払による場合
第12章 企業結合の会計基準(1):のれんの認識と評価
1 はじめに
2 プーリング法と取得法
3 取得のれんの簿価と時価
4 おわりに
第13章 企業結合の会計基準(2):のれんの取得と償却
1 はじめに
2 のれんの取得と自己創設のれん
3 承継する資産の評価替え
4 のれんの償却と利益の実現
5 おわりに
第14章 企業結合の会計基準(3):取得のれんと評価差額
1 はじめに
2 投資のリスクと成果の実現
3 評価益とキャッシュフロー
4 取得のれんのオンバランス
5 おわりに
補論 時価簿価差額とのれん
第Ⅲ部 会計研究のあり方
第15章 ファイナンシャル・レポーティングの動向と展望:原価論と時価論の対話
1 時価主義の何が問題か
2 市場の価格変動で利益が決まるか
3 時価会計の論理とは
4 投資の成果:事前の期待と事後の測定
5 時価評価に伴う利益のボラティリティー
6 時価論のエクステンション:時価から来価へ?
7 制度改革論の政治性
8 ファイナンシャル・レポーティングの質
9 契約と会計情報:会計のサイドビジネス
10 会計基準はどこへ行くのか
11 我々は何をしたらよいか
12 未来の会計研究がどうなるか
第16章 会計基準と会計研究:それぞれの経緯・現状・課題
1 会計基準開発
(1) 基準開発体制の変化
(2) 日米欧のコンバージェンス
(3) 後進性とキャッチアップ
(4) 個別問題:純利益とのれん
2 財務会計研究
(1) 会計研究の動向
(2) 規範的研究とその課題
(3) 基礎概念を問い続ける意味
(4) 利益認識と実現の概念
3 研究指導
(1) 研究と先端技術
(2) 研究の掘り下げ方
- 担当編集者コメント
- 経済的所得概念と会計利益の関係や会計上ののれん認識について考察し、今後の会計研究のあり方を提言する
本書は、「所得」という経済学の基本概念と、それを操作可能な(operational)ものとし数値化する会計上の「利益」との関係や、「のれん」と呼ばれる無形財の認識が資本や利益の大きさを左右する企業会計の仕組みに深くかかわることについて、井尻雄士先生を起点に出会った共著者2人の基礎理論に遡る多年に及んだやりとりをまとめたものです。
本書は以下の3部構成となっています。
第Ⅰ部では、新古典派経済学における所得概念の正確な理解に基づいて、実際に認識・測定できるという意味で操作可能な会計利益概念の構築を目指しています。本書ではヒックス、フリードリヒ・ハイエク、アーヴィング・フィッシャーらの原典にあたりながら、リスクから解放されたという意味での実現利益概念に基づく純利益こそ、「恒常所得」としての経済的所得の操作可能な代理変数たり得ることを示します。いわば「会計の経済学」ともいうべき内容です。
第Ⅱ部では、ゴーイングコンサーンを対象とする企業会計における例外事態である企業結合を契機に生じる、被取得会社の自己創設のれんの認識・測定をめぐる問題を扱っています。実現利益の観点から、結合時のバランスシートにのれんは資産として計上されるべきか、計上されるとしたら反対勘定(純資産)はどうなるのか、また結合後の利益計算において、のれん償却はどうあるべきか、ストックとフローで表裏一体の関係にあるのれんの会計処理について検討しています。昨今の議論にも有益な示唆を与える内容です。
第Ⅲ部は本書を総括するものとして、斎藤先生と故井尻雄士教授(カーネギーメロン大学)および徳賀芳弘教授(京都先端科学大学)との2つの対談を収録しています。著者の問題意識が明確に示されており、特に前者は30年近く前のものですが、現在にも通じる内容が言及されています。
会計学界の第一人者と傑出した論客である両先生の渾身作。
特に会計学者は必読だと思いますし、実務家の方々にとっても有益な示唆が得られる内容です。
最高水準の研究をぜひご精読・お役立ていただければと思います。




