社会問題化する組織不祥事―構築主義と調査可能性の行方

中原 翔

定価(紙 版):3,740円(税込)

発行日:2023/02/24
A5判 / 220頁
ISBN:978-4-502-45141-6

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本の紹介
組織不祥事は組織内外の利害関係者の思惑が交差した結果であるという政治的側面を持つ。本書は研究者の調査も政治性を伴う点を指摘し、それを踏まえた研究のあり方を探った。

目次

はじめに 

序 章  組織不祥事を調査するために
本書のねらい 
本書の構成 

第Ⅰ部 組織犯罪,組織事故,組織リスク
第1章  組織犯罪はなぜ生み出されるのか

 1.緒 言 
 2.ホワイト・カラーの犯罪が生み出される理由 
  2.1  ホワイト・カラー犯罪とは何か 
  2.2  犯罪に至る個人の心理と相互行為 
  2.3  ホワイト・カラー犯罪研究へ寄せられた批判 
  2.4  ホワイト・カラー犯罪の事例 
 3.職務上の犯罪が生み出される理由 
  3.1  職務犯罪とは何か 
  3.2  職務犯罪としてのセクシャル・ハラスメント 
  3.3  逸脱する職務行為 
 4.組織体の犯罪が生み出される理由 
  4.1  組織体犯罪とは何か 
  4.2  犯罪責任を誰に帰すのか 
  4.3  組織論を参考にした組織体犯罪研究 

第2章  組織事故はなぜ生み出されるのか
 1.緒 言 
 2.組織事故が生み出される理由 
  2.1  組織事故は「起こりうるもの」 
  2.2  組織事故のタイプ 
 3.組織事故を未然に防止するために 
  3.1  組織事故は「起こりえないもの」 
  3.2  「状態」として組織事故を捉える視点 
 4.「組織事故」が作られるとき 
  4.1  異なる状況で生み出される「組織事故」の知識 
  4.2  言葉としての「高信頼性組織」を利用する 
 
第3章  組織リスクはなぜ生み出されるのか
 1.緒 言 
 2.リスクが生み出される理由 
  2.1  測定可能性を前提とするリスク 
  2.2  社会的かつ文化的な文脈に根ざしたリスク 
 3.リスク社会は組織リスクを生み出す 
  3.1  リスク社会における組織と技術 
  3.2  リスク社会における情報技術とリスク 
 4.リスクは言説と規制に揺れる 
  4.1  リスクを対象とした言説と規制 
  4.2  リスク管理は文化的・規範的に行われる 

第Ⅱ部 組織不祥事の方法論
第4章  「不祥事」はどのように報道されてきたのか

 1.緒 言 
 2.言葉としての「不祥事」に注目する 
  2.1  事件や事故としての「不祥事」 
  2.2  社会問題化するための言葉としての「不祥事」 
 3.新聞記事を分析するためには 
  3.1  「ひきこもり」はどのように分析できるか 
  3.2  「ひきこもり」はどのように考察できるか 
 4.「不祥事」記事の分析 
  4.1  「不祥事」はどのように分析できるか 
  4.2  「不祥事」はどのように考察できるか 

第5章  組織不祥事はどのように研究されてきたのか
 1.緒 言 
 2.組織不祥事の定義 
 3.個人と組織はどのように発生原因を帰されるのか 
  3.1  個人に発生原因が帰されるとき 
  3.2  組織に発生原因が帰されるとき 
 4.研究者による調査アクセスの難しさ 
  4.1  組織内部へ発生原因が帰されるがゆえの限界 
  4.2  調査アクセスを困難にする実証主義的スタンス 

第6章 組織不祥事はどのように活動として捉えられるのか
 1.緒 言 
 2.社会問題の構築主義 
  2.1  状態としての社会問題 
  2.2  活動としての社会問題 
 3.方法論論争と2つのスタンス 
  3.1  オントロジカル・ゲリマンダリング 
  3.2  折り返すスタンス:方法論的リフレキシビティ 
  3.3  折り返さないスタンス:
     エンピリカル・リサーチャビリティ 
 4.ポリティカル・リサーチャビリティ 
  4.1  社会問題の追認から生成へ 
  4.2  分析枠組みの提示 

第Ⅲ部 組織不祥事を調査する
第7章  運輸会社へのインフォーマル調査

 1.緒 言 
 2.フォーマル・アクセスの失敗 
  2.1  組織不祥事研究に関心を示す担当者との出会い 
  2.2  フォーマル・アクセスを拒否する担当者 
 3.外部通報を生み出す権力関係 
  3.1  パート社員による外部通報 
  3.2  カイシャ天皇制 
 4.外部通報をもみ消す権力関係
  4.1  もみ消される外部通報 
  4.2  降格防止目的の権力関係 

第8章  製薬会社へのフォーマル調査
 1.緒 言 
 2.フォーマル・アクセスの成功 
  2.1  社会人大学院生と人事担当者との出会い 
  2.2  子会社従業員による外部通報 
 3.外部通報を無効にする権力関係 
  3.1  子会社を切り離す経営陣の権力 
  3.2  再発防止策を徹底しようとする上位層の権力 
 4.再発防止策の不備に関わる権力関係 
  4.1  再発防止策の不備に言及する営業社員 
  4.2  本社と営業現場の権力関係 

第9章  組織不祥事を調査する意味とは何か
 1.緒 言 
 2.フォーマル・アクセスの成否と組織の政治性 
  2.1  ポリティカル・リサーチャビリティの意味 
  2.2  両調査におけるフォーマル・アクセスの成否 
 3.調査の可能性と政治性 
  3.1  両調査における問題化と周縁化 
  3.2  問題化と周縁化を生み出す権力関係,そして研究者の政治的立ち位置 

第10章  結 論
 1.緒 言 
 2.組織不祥事研究の展望 
  2.1  第Ⅰ部で明らかにしたこと 
  2.2  組織不祥事研究の理論的展望 
 3.組織不祥事研究の調査可能性 
  3.1  第Ⅱ部で明らかにしたこと 
  3.2  ポリティカル・リサーチャビリティの困難さ 
 4.組織不祥事研究者の役割 
  4.1  第Ⅲ部で明らかにしたこと 
  4.2  組織不祥事研究者に課せられた役割 
 
おわりに 

著者紹介

中原 翔(なかはら しょう)
[プロフィール]
2016年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。大阪産業大学
経営学部講師を経て,2019年より同学部准教授。現在に至る。
専攻:経営管理論,経営組織論

[主な著作]
「数値化された法的基準が誘発する組織不正:燃費不正の事例研究」『日本情報経営学会誌』,第40巻,第1-2号,pp.89-101, 2020年.
「組織不祥事研究のポリティカル・リサーチャビリティ:社会問題の追認から生成に向けて」『経営学の批判力と構想力』文眞堂,133-143頁,2016年
「想定外のマネジメント:高信頼性組織とは何か」文眞堂,2017年(共訳)
Materiality in Management Studies: Development of the Theoretical Frontier, Springer, 2022年(Ch.5 "Practical Implications of Social Construction: Turning Constructivism to Constructionism"を担当)