メルコ学術振興財団研究叢書/6医療管理会計―医療の質を高める管理会計の構築を目指して
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- 医療を対象とした管理会計研究は、近年原価計算を中心に知見が蓄積されつつあるが、本書は、医療機関の経営をシステムとして構成する医療管理会計の構築を目的としている。
目次
メルコ学術振興財団研究叢書6
医療管理会計
―医療の質を高める管理会計の構築を目指して―
目次
第1章 本書の目的と構成
第1節 問題提起
1 医療機関における管理会計への注目
2 営利企業を分析対象として生成・発展してきた経緯をもつ
管理会計と医療
3 医療機関の持つ非営利性と管理会計
4 医療機関への管理会計の貢献の可能性
5 近年の医療機関の経営に関する背景
6 医療機関の経営に影響を及ぼす制度的変化
7 営利企業で生成・発展した管理会計を非営利の医療機関に
「導入」することの問題点―医療の質を損なう可能性について
の指摘―
第2節 本書の構成
第2章 医療機関における管理会計の意義と役割
第1節 はじめに
第2節 背景および先行研究の整理と問題設定
1 原価計算研究を中心とした医療機関における管理会計研究
2 医療機関における実務的な観点からのマネジメント意識に
着目した研究
3 制度的環境変化に伴う医療機関経営への影響
第3節 医療管理会計研究の問題点と医療機関のマネジメント・
コントロール・システム
1 病院BSCと病院予算
2 予算を中軸とする病院管理会計
3 先行研究の問題点と総合管理の視点の必要性
第4節 まとめと考察
第3章 医療保険・診療報酬制度と医療経営
―医療経営の制度的環境の現状と制度改革の背景―
第1節 はじめに
第2節 日本の医療制度
1 日本の医療システムのしくみ
2 国民医療費
第3節 医療保険システムを形成する4つの主体の概要と財政状況
1 保険医療機関(病院・診療所等)の概要と財政状況
2 保険者の概要と財政状況
3 国・地方自治体の医療費の公費負担の概要と財政状況
4 被保険者(患者)の医療費負担の概要と家計状況
第4節 診療報酬制度と医療機関の経営
1 診療報酬制度
2 診療報酬点数と医療機関経営
第5節 まとめと考察
第4章 診療報酬の支払制度の変化と影響
第1節 はじめに
第2節 診療報酬の支払方式―原則出来高払いの診療報酬体系―
1 診療報酬体系のシステム
2 診療報酬体系の構築/改定の歴史的経緯
3 原価計算方式の診療報酬体系の問題点
4 診療報酬改定のプロセスとその問題点
第3節 診療報酬の支払方式の変化
1 日本で導入の進む米国式DRG/PPSとRBRVS
2 原則定額払いのDRG/PPS
3 計算式に基づく点数表RBRVS
第4節 診療報酬の支払方式の変化と医療機関のインセンティブ
1 医療機関経営と診療報酬の支払方式
2 日本における診療報酬の支払方式の変化と医療機関の
インセンティブ
第5節 医療コスト削減行為の弊害を補う行為としての医療機能評価
1 医療の質の評価
2 医療コスト削減行為のフォローアップの必要性
第6節 まとめと考察
補 論 日本と大きく異なる米国の医療供給システム
1 民間保険が主の医療システム
2 メディケアとメディケイド
3 マネジドケア―HMO
4 マネジドケア―PPO
5 マネジドケアの問題点
6 まとめ
第5章 医療機関の利益概念と医療経営
第1節 はじめに
第2節 医療機関の利益概念
1 病院会計準則と医療機関の利益概念
2 医療機関における利益概念とその指標としての妥当性の検討
第3節 医療機関における管理会計と独立行政法人 国立病院機構
1 医療機関の管理会計という視点
2 独立行政法人国立病院機構の分析の視点
第4節 医療機関の赤字経営とその意味― 独立行政法人国立病院
機構のデータでみる医療機関の利益概念―
1 独立行政法人国立病院機構の発足の経緯
2 国立病院特別会計
3 官庁会計から独立行政法人会計へ
第5節 独立行政法人国立病院機構の費用構造と当期純利益
1 分析方法および独立行政法人国立病院機構の全体分析
2 独立行政法人国立病院機構の個別施設の損益構造分析
3 独立行政法人国立病院機構の業務別の損益構造の分析
(全体・個別施設)
第6節 まとめと考察
第6章 予算管理システムを中軸とした総合管理
―システムとしての医療管理会計―
第1節 はじめに
第2節 医療機関の組織構造・特徴と管理会計システム
1 医療機関の組織構造およびその特徴と管理会計システム
2 プロフェッショナルに関する理論的考察
3 プロフェッショナル・モデルとコミュニケーション・システム
第3節 総合的な経営管理システムとしての予算管理システム
第4節 営利企業と医療機関の予算管理システムの体系とプロセス
の相違点
1 営利企業の予算管理システムの体系とプロセス
2 医療機関の予算管理システムの体系とプロセス
3 営利企業と医療機関の予算管理システムの体系とプロセスの
相違点
第5節 営利企業と医療機関の予算管理システムの機能の相違点
1 営利企業の予算管理システムの機能
2 医療機関の予算管理システムの機能
3 営利企業と医療機関の予算管理システムの機能の相違点
第6節 医療機関の予算管理システム―病院予算管理システムの
構築―
1 先の分析より明らかになった論点とその意味
2 概念モデルの導出
第7節 まとめと考察
第7章 病院経営における管理会計の機能
―病院予算を中軸とした総合管理の事例―
第1節 はじめに
第2節 研究方法とケース(調査対象病院)の概要
1 研究方法と分析対象
2 ケース(調査対象病院)の概要および位置づけ
第3節 管理会計システム
1 管理会計システム
2 部門別収益計算と部門別原価計算に基づく部門別損益計算
システム
第4節 戦略形成・事業計画・目標の共有・業績評価が一体となった
病院の予算管理システム
1 事業計画(予算)の編成過程
2 事業計画(予算)の情報共有と業績評価との連結
(実績と事業計画との差4444444に基づく業務評価)
3 事業計画・部門別事業計画と事業計画の個人版「チャレンジ
シート」の連結
4 業績評価と行動評価の分離評価
5 月次決算(月次の数値管理と施行管理の統合管理)と事業計画
の修正
第5節 戦略形成・事業計画・目標の共有・業績評価が一体となった
病院の予算管理システム―ケースからのモデルの抽出―
第6節 まとめと考察
第8章 成果と展望
第1節 本書の要約と成果
第2節 今後の展望
参考文献
索 引
著者プロフィール
衣笠 陽子(きぬがさ ようこ)
滋賀大学専任講師 博士(経済学)
1980年 兵庫県神戸市に生まれる。
2003年 京都大学経済学部卒業。
2005年 京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(~2008年10月)。
2008年 京都大学大学院経済学研究科博士課程学修認定退学。
2008年 滋賀大学経済学部会計情報学科専任講師,現在に至る。
[主要業績]
「医療制度改革と医療機関における管理会計」(上總康行・澤邉紀生編著『次世代管理会計の構想』中央経済社,2006年5月),237-261頁。
「医療機関の赤字経営とその意味―独立行政法人国立病院機構の分折を通して―」『管理会計学』(日本管理会計学会学会誌)第15巻第2号,2007年3月,93-108頁。
「病院経営における管理会計の機能―病院予算を中軸とした総合管理―」『管理会計学』(日本管理会計学会学会誌)第20巻第2号,2012年5月,3-18頁。【日本管理会計学会2012年学会賞受賞(論文奨励賞)】
- 担当編集者コメント
- 本書のはしがきに、次の内容があります。
「近年の日本の医療制度改革は、年々現場に効率性を求めるものとなっており、医療機関に対して管理会計的志向を導入する傾向が生じている。医療機関の経営がたち行かず、医療サービスの提供の継続が不可能となれば、当該医療機関の地域の住民には多大な影響が生じることから、効率性を重視することの意義、その解決策の1つとして管理会計が果たす役割は小さくないともいえる。
しかし、だからといって、安易に効率性・経済性を求めてよいのだろうか。また管理会計学は営利企業を対象の生成・発展してきたものであり、非営利の医療機関に「あてはめる」ものではないのではないか。患者に不利益な、また施術する医師も不本意である医療の提供を強いる医療管理会計なら、ないほうがましである。近年、「医療」と「会計」が非常に近くなっているが、そもそも両者の関係はどのようにあるべきか。これが筆者の一貫した研究課題であり、本書の主題である。」
真に医療の向上に資するマネジメント・システムを提示しようという著者の熱い想いがこめられた研究書です。
(2021年1月より,「公益財団法人メルコ学術振興財団」は「公益財団法人牧誠財団」に名称変更いたしました。)